「診断率の低さ」が課題に。CKD早期発見と「ステージ3a」への介入の重要性

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国民病とも言われる慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全による透析導入や心血管疾患を招く要因となるため、自治体の保健事業においても医療費適正化および重症化予防の優先度が高い疾患の一つです。
しかし、CKDは自覚症状が乏しく、健診で異常値を指摘されても医療機関への受診につながらないケースや、受診していても確定診断に至らないケースが少なくありません。

今回ご紹介する研究は、DeSCヘルスケアが提供するレセプトおよび健診データベースを活用し、日本におけるCKD診断の実態と、診断時のCKDステージがその後の予後にどのような影響を与えるかを明らかにしたものです。
データから見えてきた日本のCKD診療の実態をご紹介します。

論文名:The diagnostic status of chronic kidney disease in a real-world database in Japan: CHECK-CKD(日本のリアルワールドデータベースにおける慢性腎臓病の診断状況:CHECK-CKD)

CKD診断率は低い水準で推移、進まないCKDの「診断」

この研究では、DeSCヘルスケアが提供するデータベースを利用し、2014年から2023年の間に特定健診などを受けた人のうち、健診でCKDが疑われる検査値が認められた集団(eGFR 60 mL/min/1.73 m²未満、または尿蛋白1+以上)約28万8000人を対象に分析を行いました。

分析の結果、健診でCKDのリスクを示す数値が出ていたとしても、その後実際に医療機関でCKDと診断された人の割合は、2014年から2021年にかけて年間約2.6%〜3.4%と低い水準で横ばいに推移していることが明らかになりました。
2018年のCKD診療ガイドライン改訂や、2021年の新薬(SGLT2阻害薬)の承認といった診療環境の変化があったにもかかわらず、診断率に大きな変化が見られなかったことは、たとえ他の生活習慣病などで医療機関にかかっていたとしても、臨床現場におけるCKDの診断・拾い上げが依然として課題であることを示唆しています。

リスク因子を持っていても検査が行われていない実態

なぜ健診でリスクが可視化されてもCKDの診断が進まないのでしょうか。

この研究では、医療機関での「血液検査」や「尿検査」の実施有無が、CKDの診断に関連していることが示されました。
医療機関で血液検査を受けた人は、受けなかった人に比べてCKDと診断されることと強い関連が示されました(オッズ比が約5)。尿検査を受けた場合も同様の強い関連がみられました(オッズ比が約4)。CKDの確定診断に至るプロセスにおいて、いかに医療機関での適切な検査が重要であるかを改めて示しています。

CKDを正しく診断するには、健診の数値だけでなく、医療機関での詳しい再検査や経過観察が欠かせません。たとえ病院に通っていても、こうした検査が行われないと、診断の機会を逃してしまう可能性があることをデータは示唆しています。

糖尿病・高血圧で通院中でも、検査が行われていないケースも

すでに糖尿病や高血圧などの持病があることがレセプト等で確認された「CKDのハイリスク層」の方々においても、腎臓の検査が十分に行われていない現状がデータから見えてきました。

2021年のデータを分析したところ、医療機関にかかっていながらも、血液検査の記録が確認できなかった人は、糖尿病の方で約28%、高血圧の方では約41%にのぼりました。さらに尿検査についてはより顕著で、糖尿病の方の約63%、高血圧の方の約73%で実施の記録がありませんでした。

診療ガイドラインでは、これらの持病がある方への定期的な腎機能評価が推奨されています。しかし、日々の生活習慣病の治療の陰で、腎臓の評価(特に尿検査)が見過ごされている可能性が示唆されています。

「ステージ3a」での早期診断が、重症化予防につながるカギ

CKDと診断された時の『腎機能(eGFRで既定されるステージ)』が、その後の心腎関連イベント*1のリスクにどう影響するかも分析されています。

健診でリスクが見つかった人を3年間追いかけたところ、早い段階「ステージ3a(eGFR 45〜59)*2」で診断されたグループに比べ、少し進行した段階「ステージ3b(eGFR 30〜44)*3」で診断されたグループは、心不全や透析などの心腎関連イベントにかかる割合が、約2.8倍も高くなっていました。

また、ステージ3bで診断されたグループは、診断がつく前の期間から腎機能(eGFR)の低下スピードが速い傾向も確認されました。

これらの結果は、診断時のCKDステージの違いがその後の心腎関連イベント発生と関連する可能性を示しており、ステージ3aの段階でCKD診断に至る重要性を示唆しています。

*1:心臓や腎臓の機能不全が、互いに悪影響を及ぼし合うこと。この研究においては、透析の開始や心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院などを指す
*2:軽度〜中程度以下。腎機能が正常の半分程度まで低下しているが、まだ自覚症状が出にくい段階
*3:中程度〜高程度以下。さらに機能が低下し、貧血やむくみなどの症状が出始め、将来の透析や心不全のリスクが急激に高まる手前の重要な分岐点

【保健観点】論文から考える、「検査推奨」と「早期介入」による重症化予防戦略

今回ご紹介した研究では、CKD診断率の低さ、医療機関での血液・尿検査実施と診断との関連、診断時ステージの違いとその後の心腎関連イベント発生率の差が示されました。
これらの知見から、保健事業への応用として、CKDの重症化予防に向けた保健事業においては、従来のハイリスク者への受診勧奨だけでなく、リスク保有者に対してより早く医療機関での検査を促す働きかけが、戦略的な予防戦略になりうる可能性があります。

「受診」+「検査」が、早期診断・重症化予防につながる可能性

健診でリスクが指摘されても、自覚症状がないために「数値が少し悪いだけ」と放置されがちなのが、重症化予防に重要な分岐点である「ステージ3a」層です。受診を促すだけでなく、医療機関で「血液・尿検査をしっかり受けること」をセットで伝えることで、受診を確実な診断へと結びつけられる可能性があります。

通院中の生活習慣病患者へのアプローチ

糖尿病や高血圧で通院中の方でも、実は腎臓の検査が定期的に行われていないケースがあることがデータで示されました。
保健事業としては、対象者に対し「受診時に健診結果を見せて、腎臓の検査も相談してみましょう」と具体的に促すことがCKDの早期発見に繋がる可能性を高めると考えられます。また、地域の医療機関と連携し、生活習慣病患者への定期的な腎機能評価(特に尿検査)を推進することも、診断機会創出の一助となる可能性があります。

腎機能の「低下スピード」に着目した、一歩進んだリスク評価

単年度の数値だけでなく、過去からの経年データを用いて、腎機能(eGFR)が低下するスピードに着目することも、重症化を防ぐための重要な視点です。
今回ご紹介した研究でも、進行した段階で診断されたグループでは、それ以前の期間に数値が速く低下していた傾向が確認されました。そのため、たとえ現在の数値が軽度の異常であっても、低下の勢いが速い方を見極めることは、将来の重症化リスクを予測する手がかりになる可能性があります。
例えば、過去の健診結果と比較して数値の変化が大きい方を優先的にフォローするような工夫は、限られた保健活動のリソースをより必要性の高い方へ重点化し、効率的な予防活動につなげるための一助となることが期待されます。

研究の注意点

この研究の結果を解釈する上で、以下の点に留意が必要です。

• CKDの診断はレセプトに記載された病名を基に診断の有無を判定しています。そのため、実際には医師が腎機能を管理していても、書類上は「高血圧」や「糖尿病」などの主疾患名のみが記載されているケースなどは、診断数に含まれていない可能性があります。実際の診断率は、今回の結果(3%台)よりも少し高い可能性があることを考慮しておく必要があります。
• DeSCデータベースは複数の保険者(健保、国保、後期高齢)を含んでいますが、転職や転居などで保険者が変わった場合は、それ以前のデータとの紐付けが難しく、追跡が途切れてしまう場合があります。
• 対象者は健診受診者であるため、一般住民よりも健康意識が高い層である可能性があります。(健康者バイアス)
• 近年、CKDの治療に大きな変化をもたらしているSGLT2阻害薬のCKD適応承認後の期間が短いため、新薬の影響については長期的な検証が待たれます。

まとめ

今回の分析の結果、健診でCKDが疑われる検査値が認められた集団におけるCKDの診断率は依然として低く、特にリスク因子を持つ患者さんに対して、医療機関での腎機能検査が必ずしも定期的には行われていない可能性が示唆されました。
そして、診断時のCKDステージの違いがその後の心腎関連イベント発生と関連する可能性を示しており、ステージ3aの段階で診断に繋げる重要性を示唆しています。

今後の保健事業においては、単なる受診勧奨に留まらず、健診で異常が認められた際に医療機関で「血液・尿検査」を受けることの重要性を具体的に周知し、さらには通院中の方へも健診結果を診察時に提示し、腎臓の状態についても一緒に確認してもらうような働きかけが重要と言えるでしょう。
また、単年度の数値だけでなく、経年データから腎機能の低下スピードが速い層を優先的にフォローする視点を持つことは、限られたリソースの中で重症化予防の効果を高め、住民の健康寿命の延伸と中長期的な医療費適正化を両立させるための確かな一歩となることが期待されます。

※本コラムでご紹介している各研究には、保険者様の効果的かつ効率的な保健事業の実施に資する範囲で、アカデミアや製薬企業による論文発表などのエビデンス創出に活用することに利活用許諾をいただいた匿名加工情報、および提案募集制度を介して提供を受けた行政機関等匿名加工情報が用いられています。一部の研究では目的に応じ、いずれか一方のみを利用しているケースが含まれます。

引用・参考文献

Moriyama T, Kanafuri K, Kanno M, Niibe K, Nago S, Fukuoka I, et al. The diagnostic status of chronic kidney disease in a real-world database in Japan: CHECK-CKD. Clin Exp Nephrol. 2025 May 27. doi: 10.1007/s10157-025-02682-z.

監修医師:石原藤樹

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